出演者インタビュー、第五回は「渡辺尭道」役のノゾエ征爾さんと「安西恭子」役の牛尾千聖です。
最終回の今回は、出演者の笠木泉さんがインタビュアーをつとめてくださいました。ぜひご覧ください。
(聞き手:笠木泉、撮影:上村聡、編集:牛尾千聖)

- 笠木
- 去年の12月から少しずつ稽古を積み重ねてきましたが、いかがですか?
- ノゾエ
- 必死です(笑) 単純にセリフを体にいれるところから、もう必死です。僕は稽古に遅れて参加したのですが、稽古場の雰囲気がよいので途中からなのに入りやすいなあと感じています。みんなが同じ方向を向いているようで。だからぼくもそこにスッと入るだけでいいみたいな。
- 牛尾
- 稽古にむけてみなさんと色々準備してきたので、こうして稽古できることがうれしいです。
- 笠木
- 楽しいですか?
- 牛尾
- 楽しいです。今まで会話をする芝居の経験が少なくて、舞台上にとりあえずいるということが多かったんです。落ち着いて他の人のシーンをみるってことがあまりなかったので、今回はじっくりみれておもしろいです。
- ノゾエ
- 待つことをしらない女優だったのか……。
- 牛尾
- 違います、そういうことじゃなくって(笑)
- ノゾエ
- でも、それは僕にすれば意外ですよね。宮沢さんというと会話の妙を魅せる印象が強いから。
- 笠木
- ノゾエさんは劇作家もされていますが、『ヒネミの商人』の戯曲を読まれていかがでしたか?
- ノゾエ
- 作家ってこういうことなんだなって、本当の作家ってこういうことなんだよなって思いました。作家というものをみせつけられたというか。20年前というと、宮沢さんは今の僕とほぼ同じ歳だったろうし。
- 笠木
- どうやって書いているかなど、気になりますか?
- ノゾエ
- めちゃくちゃ気になりますね。
- 笠木
- ノゾエさんが書かれている方法とは違いますか?
- ノゾエ
- 絶対違うと思います。積み上げ方が全然違うし、自分にはないものなのですごく憧れます。一生、こんな風には書けないんだろうなと思いつつ、いつかパクりに近いようなことをやってみたいなと思う(笑)
- 一同
- えっ(笑)
- 笠木
- いきなりパクるって。
- ノゾエ
- いや、だから台本の最後に「参照、ヒネミの商人」って……。
- 一同
- あははは(笑)
- ノゾエ
- でも宮沢さんに憧れ始めた頃の戯曲に、今触れられているのが光栄です。このあいだ、僕のfacebookで『ヒネミの商人』に出演することを告知したら、大学時代の友人が返信をくれたんです。その当時に『ヒネミの商人』の戯曲を買ったよって。
- 笠木
- 牛尾さんは宮沢さんの最近の戯曲にふれていると思いますが、20年前くらいの宮沢さんの戯曲はご存知でしたか?
- 牛尾
- 大学の授業公演で宮沢さんの昔の作品を上演したことがあり知っていましたが、改めて読むとやっぱりおもしろいです。普通省略しそうなところを丁寧に書いているから、それがおもしろくって。お話に関係なさそうな部分は割愛する本は多いけれど、そこを丁寧に描くことで関係性とか世界観が出てきてくるから、それがすきです。
- ノゾエ
- 僕はその、割愛しちゃうタイプの作家です
- 牛尾
- う、嘘だ。
- 笠木
- ノゾエさんは「渡辺尭道」という役ですが、役作りで何かされていることはありますか?
- ノゾエ
- うーん、やっぱり滑舌ですね。
- 一同
- かつぜつ?
- ノゾエ
- ええ、毎朝おきたら滑舌の練習をしてます(笑)。それぐらい自分にはハードルの高い役で。
- 笠木
- 「渡辺」は銀行員で、セリフの内容が難しいですよね。
- ノゾエ
- 慣れない言葉もそうですし、あと結構セリフ自体が多くて。セリフをかんじゃうと、それがとても大きく響き渡るような作品だから。ともかく気をつけねばと。
- 笠木
- 「安西恭子」役の牛尾さんはいかがですが? 恭子は高校生ですが。
- 牛尾
- まず無理はありますよね……年齢的に。中村ゆうじさんに、眉間にしわをよせるな、すぐばれるぞって言われています(笑) でもまあ、舞台は暗いし。……ただ、観に来てくれる友達には視力を落として来てねって言ってます。あと、目を薄めてとか……。
- 笠木
- 佐々木さんも同じく高校生役だけど、でも、ふたりとも気になりませんよ。
- ノゾエ
- うん、全くというか、気になったことないです。
- 牛尾
- よかった。女子高生を演じるというのはあまり意識してなくて、そこにいれるようにとか、家にいる女の子ってところまでしか考えれてないですが。
- 笠木
- もともと演技をするとか、役作りをするって方向でお芝居しないのですか?
- 牛尾
- そんなことはないけれど、今まで名前がないというか「報告者」のような役をすることが多くて。あと情けないですが、自意識過剰と葛藤するところから毎回稽古をはじめてしまって。役と自分との距離をつめようと必死ですが、あんまりちゃんと役づくりができてないかもしれないです。
- ノゾエ
- よくいう、「役を自分に近づける」タイプですか?
- 牛尾
- あはは、そうかなあ。自分がやって嘘がないようにしてから、ごまかす? というか自分もだましてやろうとおもうのですが。
- 笠木
- うん、わかりますよ。今回は出演者インタビューを全員にしていますが、みんな色々違っておもしろいですね。
- 牛尾
- そうですね、みんなおもしろいです。
- 笠木
- ノゾエさんは俳優として活動されている他、劇団も主宰され演出もされていますが、宮沢さんの演出についてはいかがですか?
- ノゾエ
- とってもスマートだと思います。的確にポイントを指摘して、それが作品にとって大事であることを明確にうちだしているような気がします。その‘点’をたどっていけばいいようにしてくれる。他の出演者への演出もすごく勉強になるので聞いています。
- 笠木
- 自分がされている演出方法と置き換えて考えたりされますか?
- ノゾエ
- 置き換えると言うか、僕にはできていないなと思うところがたくさんあります。宮沢さんの演出のように、的確でスマートにやれるようになりたいです。
- 笠木
- 普段、ノゾエさんはどういう演出をこころがけていらっしゃいますか?
- ノゾエ
- 「提案すること」でしょうか。なるべくみんなの脳を動かして、「こんなのどうでしょうか?」っていう具合に投げかける。常に可能性も残しておきたいタイプです。現時点はこうだけど、まだあるよねって。
- 笠木
- みんなで考えるとなると、はえぎわの劇団員さんはイマジネーション重視で大変ですかね?
- ノゾエ
- どうでした?(※笠木さんはノゾエさん主宰「はえぎわ」に多数出演されています。)
- 笠木
- 記憶に残っているのは、「笠木さん、ここは『ミクニハナイハラ』みたいに踊ってみようか」ってノゾエさんに言われたことですね。
- 一同
- あはは!(笑)
- 笠木
- 忘れちゃったな、と思いながらもとりあえず踊りました。場を和ませてくれるというか、空気をつくってくれる演出をされる方だなと思いました。はえぎわの劇団員さんも的確にそれに対応しているって感じでしたね。
- ノゾエ
- そうでしたか、ありがとうございます(笑)。でも宮沢さんって「この人を信じていればいいんだ」と思わせてくれる。
- 笠木
- 確固たる宮沢さんのおもしろさがありますよね。そこにどう乗っていくか……。
- ノゾエ
- まず、宮沢さんがおもしろいもんね。自分でやってみせる時とか、確実に面白い。
- 笠木
- かなわない。
- ノゾエ
- 出演はされないのかな? 「10分に一回、ぼそっとひとこと喋る」みたいな役、すごくおもしろそうですよね。
- 一同
- (笑)
- 笠木
- では、ノゾエさんの舞台で宮沢さん出演とか……。
- ノゾエ
- 10分に1回爆笑が起きる!
- 笠木
- では最後になりますが、これを読んでいただいている方々へメッセージをお願いします。
- ノゾエ
- 僕はこの本の鮮度として20年前の本という感覚は全くないんです。今、この時代にできた新鮮な作品としてやれたらと思うし、お客さんにも新鮮に楽しんでもらえたらなと思います。
- 牛尾
- とてもおもしろい戯曲だと思うし、おもしろいキャストで上演できると思います。是非観に来ていただきたいです。どんな作品だろう? と思っていただけたら、特設サイトにたくさん情報も載せているので参考にしていただければと思います。
- 笠木
- 牛尾さんは今回特設サイトでヒネミの商人についてマンガを描いていますが、マンガ家やイラストレータとかになろうとは?
- 牛尾
- イラストレーターに憧れていました! 落書きが大好きで。ただ、無意味すぎて使い物にならないです。
- ノゾエ
- あ、でもキングコングの西野さんはタモリさんに落書きをみられて、絵を描けばってアドバイスされて今描いているんだって。
- 牛尾
- あ! 今回描き始めたのは、笠木さんが描いたらって言ってくれたからです。初めてマンガかきましたよ。
- ノゾエ
- お、じゃ笠木さんがタモリさんみたいなかんじだ。
- 笠木
- 私がタモリさんか……。やった! マンガの評判がいいから、じゃ、Tシャツつくろう!
- 一同
- うおー。
- 笠木
- 今日はお忙しい中ありがとうございました。もう少しで本番です、がんばりましょう。
(3月12日、座・高円寺にて)

