出演者インタビュー、第二回は「安西正治」役の中村ゆうじさんです。
『ヒネミの商人』の初演にも出演されている中村さん。たくさんお話をうかがいました。
どうぞご覧ください。
(聞き手・編集:牛尾千聖 撮影:上村聡)

- ──
- 去年の12月から少しずつ稽古を積み重ねてきましたが、いかがですか?
- 中村
- こんなに真面目な芝居をするのは、本当に20年ぶりですね。
- ──
- え! じゃあ『ヒネミの商人』の初演以来、ということですか!?
- 中村
- そうですね。おもしろいような、なんというか……
- ──
- 稽古初日から台本を離してらっしゃって、共演者みなさん驚いておられましたね。
- 中村
- そりゃそうですよ! 11月に台本もらって、覚えてないほうがおかしいよー。僕は絶対セリフ間違えないつもりでやっているんだけど、それでも間違っちゃうから悔しいですよね。
- ──
- 今回は再演ですが、初演はどんな感じでしたか?
- 中村
- その時はまだ37歳で、「役者は舞台で燃焼して帰ってくるもんだっ!」というへんな達成感が欲しい時期でした。でも本番が終わっても疲れてなくて……。「本当に舞台に出演したのかな?」というような不思議な感覚を味わったことを覚えています。
- ──
- 初演は小さな声で演技する演出があったと伺いました。
- 中村
- そうなんです。初演は会場がギャラリーで、お客さんに囲まれながら日常生活と同じくらいの音量でセリフを言っていました。ぼそぼそと話す感じ。それではお客さんにセリフが届かないんじゃないかと思いましたが、宮沢さんに「それでもいい」と言われて。今回はそのやり方ではしていません。初演とは違って今回は劇場ですしね。稽古でも意識的に声を出すようにしてます。
- ──
- 『ヒネミの商人』で初演と同じ役をやるにあたっては、いかがですか?
- 中村
- 初演は背のびしていたところがあったと思います。今は57歳になったので、役の設定とぴったり! 自分と重なる部分も多いですしね。
- ──
- 今回改めて『ヒネミの商人』を読まれて、以前読まれた時と印象は変わりましたか?
- 中村
- 全然変わってないですね。でも今回は意識的に笑いをとらなくてはいけないと思っています。
- ──
- 初演では意識されていなかったことですか?
- 中村
- 初演では意識していませんでしたが、笑いをとれなきゃいけない芝居だと思ってます。僕はいつも武道の話で例えてしまうんですが、技を見せないで技をかけるということをやらなきゃいけない舞台なんです。技を見せないで笑いをとるという一番高等な舞台。宮沢さんはシャイなので、みんなに笑いをとれなんて言わないと思うけど。
- ──
- 中村さんは武道などもされていて身体づくりがストイックなイメージがありますが、どうしてですか?
- 中村
- 子供の頃、身体が弱かったせいです。吐いたり熱を出したりした嫌な思い出が反動になっていて。だから小学生の頃から腹筋やったり腕立てやったり、養命酒を飲んだりしていましたね。
- ──
- 養命酒、シブイ小学生ですね……。お芝居はいつからされていたのですか?
- 中村
- 小さい頃の学芸会からです。なぜか本番当日、主役とか大事な役の子がいなくなっちゃうんです。それで僕がよく代役をしていました。『赤ずきんちゃん』をやるとオオカミの役がいなくなって、オオカミをやったり。『トルコの王様』では王様が来なくて王様をやりました。
- ──
- いきなり本番で代役するなんて……普通はできないです。
- 中村
- 中学生の頃は演劇部でした。最初は陸上部で走っていたんですが、演劇部の顧問に可愛がってもらっているうちに、いつのまにか演劇部に入部して舞台に上がってましたね。
- ──
- 中村さんといえば、パントマイムですよね。どんなきっかけで始められたんですか?
- 中村
- 俳優養成所に入っていた頃、先生からある公演のチケットを頂いて観に行ったんです。それがロルフ・シャレさんのパントマイムで、あまりのすごさに驚きました。これをやらないと芝居は始まらないなと思いました。舞台ってみんなでやるから面白いけれど、一人でも舞台をつとめられるということが原点だと思うんです。一人でも面白いことをやれる人が10人集まったらもっと面白いことができる。僕はそのなかの一人になりたいんです。そして一人でも舞台をつとめられるっていうのは、芸人さんですよね。だから僕の志向は芸人になっていて。パントマイムは最適だと思っています。
- ──
- 中村さんはパントマイムから得られたことが、とても多いのですね。
- 中村
- はい。だから人の動きがとても気になっちゃいます(笑)
- ──
- 『ヒネミの商人』で大事にしたいことやテーマはありますか?
- 中村
- 何もないですよ。ある昼下がりの何時間かの出来事をするっていうことだけです。ただ、このお芝居のテイストできっちり笑いとりたいと思います。
- ──
- なぜ「笑いをとりたい」と思われるのですか?
- 中村
- 笑える芝居が一番おもしろいからです。芝居の先に、笑いがないとつまらないんです。『ヒネミの商人』は別に悲劇でもないし、何か事件が起きるわけでもない。観終わって日常を覗いたような気分になると思います。ただ、笑いが計算されて書いてある本だと思うんです。一見して、そうは見えないけれど宮沢さんはちゃんと笑いがとれるように書いている。そこを楽しんで演じたいです。
- ──
- では最後になりますが、これを読んでいただいている方々へメッセージをお願いします。
- 中村
- 最近の遊園地再生事業団の作品は、何本か観せてもらったけれどさっぱりわからない! 僕が知っているものと全く違うものになっていて。それなのに今やっている作品と全くテイストの違う20年前の『ヒネミの商人』を再演しようとするのがすごいですよ。遊園地再生事業団の昔を知っている方も、今を知っている方にも是非観に来て頂きたいです。もう、観に来て頂けるだけでありがたいのでよろしくお願いします(笑顔)
(2月25日、森下スタジオにて)

