
出演者インタビュー、第四回は「砂原六郎」役の宮川賢さんです。
『ヒネミの商人』の初演にも出演されている宮川さん。たくさんお話をうかがいました。
どうぞご覧ください。
(聞き手・編集・撮影:牛尾千聖)
- ──
- 去年の12月から少しずつ稽古を積み重ねてきましたが、いかがですか?
- 宮川
- 『ヒネミの商人』は当然演劇でお芝居なのですが、やっていることが芝居だと思ってしまうと具現化しにくい世界なんです。だから稽古も「稽古」とだけ臨んでいくとうまくいかない。自分が稽古場に向かうところから、気持ちの整理や準備をして行っています。僕が演じる「砂原六郎」は中村ゆうじさん演じる「安西正治」の家に入り浸るのですが、その設定のように「仲良しの友達の家」に行くつもりで稽古場に向かってます。
- ──
- 今回は再演ですが、初演はどんな感じでしたか?
- 宮川
- 初演は「もっともっと厳しい演出だった」という記憶があります。「宮川くん、いい声になってる」という駄目出しを数え切れないくらい受けました。完成した台本を受け取ってからの稽古ではなく、少しずつ台本をもらいながら稽古を進めるスタイルだったので、最初はわからないことだらけで。なんだかわからないけれどやってみよう!という具合でした。ただ、宮沢さんはハッキリとしたイメージを持って演出されていたので、それを具現化させることに集中して、必死に稽古していました。そして初演は、猛烈なる自分の方法論を持っている役者がたくさんいらっしゃたので、「調和」というより「バトル」でした。
- ──
- 今回改めて『ヒネミの商人』を読まれて、最初に読まれた時と印象は変わりましたか?
- 宮川
- まるで違いました。初めて客観的に読む事が出来ましたね。初演時は無我夢中だったので……。当時は、作品についてや作者の狙い、シーンごとの効果がどうだとか考えていては駄目でしたから。また、『ヒネミの商人』は1970年代の物語ですが、僕はその頃小学生。しかも高円寺で育ちました。だから稽古や本番で高円寺に向かうのが不思議な感覚です。20年前の作品で同じ役をやる事と相まって時をさかのぼっているような。
- ──
- 「砂原六郎」役の宮川さん。宮川さんは「砂原」じゃないか? と思うくらい自然に演じられていますが、役作りで意識されていることなどあれば教えてください。
- 宮川
- 作意を徹底的に排除することです。少しでもそれが出ると一発で指摘するのが宮沢さんの演出です。演技は加算の設計をしがちだけど、本作では減算かと。「何もしない事を頑張る」とか「自然さを強く意識する」というのは僕の場合は駄目で、ただそこにいる事を考えています。というよりただそこにいるだけにして「考えていない」です。
- ──
- 今回の現場で強くそれを感じた場面はありますか?
- 宮川
- 先日の稽古で、屋内を見ずに通り過ぎるシーンなのに、ふと見てしまったんです。あれはその弊害で(汗)。「見ないぞ」と意識してしまうと、歩くのに無理が生じて自然さが出ない。「このようにやってやろう」と企むと駄目で、自然と出てくる感情と自分の反射に素直になるのが一番かと。稽古を重ねて「演技をしない轍」を作ってひたすら繰り返せるように早くなりたいです。
- ──
- 宮川さんは俳優として活動されている他、劇団も主宰され演出もされていますが、宮沢さんの演出についてはいかがですか?
- 宮川
- 宮沢さんは役者をされないからか、役者を尊重してくれるところがあります。気持ちの整理がつかない様子ならばその手伝いを、アイデアを出して一緒に作ってくれる。その「わからない(役者の生理)」について、堪え性を以て一緒に考えてくれる姿勢は、ありがたいなぁと前から思っています。大抵の演出家(特に役者をしない演出家)は、「いいからやりなさい」ですものね。

- ──
- 稽古で、何か意識されていることなどあれば教えてください。
- 宮川
- はみ出す事。はみ出して宮沢さんから駄目を貰えば、境界線がわかるでしょう。はみ出さないまま稽古を進めて、本番で初めてアドレナリンや高揚感からはみ出してしまうのはよくないですよね。駄目だろうなぁと思う事も少しはやってみる。そして「あれ、要らないね」と言われることは遠回りのようだけど、とっても生産的な事で役者の本来の仕事だと思うのです。役者って、可も無く不可も無くが一番つまらない。駄目を出されないってことは、毒にも薬にもなってないってことだと思うのです。「NGがないからgood」と いうワケではない。僕は初演を経験していますがそんなことは関係なく、色々稽古で挑戦してます!
- ──
- 共演者についてはいかがですか? みなさん個性的ですが……。
- 宮川
- 色々ありますが、今回の再演はノゾエ征爾さんが「渡辺」の役にピタリとハマってて楽しい。ノゾエさんは僕らと違ってどれだけやってもあざとくならないので、僕らの分までもっともっと色々やって欲しいぜ、と勝手に思っています(笑)。叱られるくらいやって欲しいなぁ。その点、色々やってるのが「奈緒美」役の佐々木さん(笑)。役者どうしにしかわからない、演出やお客さんにもみえない裏芝居での眼差しがおもしろくって。僕の役「砂原」を、とてつもなく穢らわしい者をみるような眼差しでみてくる……猛烈な蔑視でサイコーです。痴漢や露出狂の気持ちが少し理解できたような気がするくらいですよ(笑)。
- ──
- あはは、本当ですね。稽古見ててみなさんおもしろいですよね。
- 宮川
- あとは牛尾だよ!
- ──
- え! なんか、怖い。
- 宮川
- てめー、いい加減にしろよ、んもー。この共演者インタビューさせてくださいと言われてから何度か「俺、今日大丈夫なんだけど、お前どう?」と訊ねて「あ、あたし今日用事あるんですよ、すいません」って言われたことか。なんだか俺が共演者の女優を誘って断られ続けているストーカーみたいになってたじゃないか。んもー。まぁ、結局こうして実現したからいーけどね。
- ──
- ああ、すみません、うふふ。色々ございまして……。
では最後になりますが、これを読んでいただいている方々へメッセージをお願いします。 - 宮川
- 砂原役の宮川です! おもしろい作品になってますので、ぜひ観に来て下さい。
- ──
- 今日はお忙しい中ありがとうございました。
(3月12日、座・高円寺にて)