
遊園地再生事業団プロデュース『ヒネミの商人』の公演にあたり、出演者のみなさまにインタビューをいたしました。
第一回目の今回は、劇中、姉妹関係である「乾七重」役の片岡礼子さんと「安西ミチ」役の笠木泉さんにお話を伺いました。
ひとつひとつ丁寧にお答えいただきました。ほんとうにありがとうございます。おふたりの声が届けばいいなと思います。
以下がその模様です。(聞き手・編集:牛尾千聖 撮影:上村聡)
- ──
- 去年の12月から少しずつ稽古を積み重ねてきましたが、稽古の現場はどんな様子ですか?
- 笠木
- そうですね、顔合わせから時間をかけて少しずつ稽古を進めている感じなので、長くみなさんと一緒にいるんです。だんだん空気みたいな存在だなと思ってきて。わりと楽な気持ちでみなさんと接しています。
- ──
- なじんできたかんじですか?
- 笠木
- そうそう。
- 片岡
- よかったー。そういう風に思ってもらえて。
- ──
- 片岡さんはいかがですか?
- 片岡
- 私は、いっそこのまま一緒に暮らしてしまいたい、というのが本音ですね。
- ──
- え!?
- 片岡
- 稽古場に来るのが楽しくてしょうがないです。
- ──
- それはよかった!
- 片岡
- でもそこまで思う私をうけとめる人は具合が悪くなるんじゃないかと思ってます。一生懸命舞台をやるって気持ちになっている自分がいて、このまま突き進んでいいのか、冷静になって落ち着いたほうがいいのかいつも迷っているかんじです。
- ──
- 初めて『ヒネミの商人』の戯曲を読んだ印象はいかがでしたか?
- 片岡
- 読んで頭の中で想像したんですが、会話のテンポがすごく速そうな気がしました。内容を確実に読もうとすると迷ってしまいました。
- ──
- 笠木さんはいかがですか? 笠木さんは以前からご存じの戯曲ですよね。
- 笠木
- そうですね、ずっと前に読んでました。昔、遊園地再生事業団の本番中のロビーで『ヒネミの商人』の台本が販売されてたんです。500円くらいだったかな。小冊子みたいのもので、それを買って読みましたね。
- ──
- そのころというと、何年前ですか?
- 笠木
- んん、19年前くらい。
- 片岡
- ええ! 『ヒネミの商人』の初演は観ました?
- 笠木
- 私は観てないんです。19年前の『知覚の庭』という舞台から遊園地再生事業団には出演しているので、そのあたりのときに入手して。読んでおもしろかったのを覚えています。『ヒネミ』も当時出版されていて。それくらいの頃に私は宮沢さんに出会いました。19歳でしたね。
- 片岡
- ほー、鳥肌ですね。
- ──
- ほー、すごい……。
- 笠木
- 昨日ちょうど『知覚の庭』で共演した大先輩の俳優さんからメールを頂いたんです。内容が「笠木、がんばってるな、20年前はこんなんだったんだぞ~」という感じのもので。ちょっと泣きそうになった。
- 片岡
- それ泣くね! 泣いていいよ。
- 笠木
- 私、あの頃一番年下だったんだなって。みんなに甘えん坊の笠木だと思われていたんだなと思うと涙がでそうになりましたが、泣いてる暇はないと。
- 片岡
- あはは! それが今の現場を物語っている。
- 笠木
- もう38だぞ、と。
- ──
- 遊園地再生事業団の作品に19歳の頃から出演されている笠木さんですが、出演されてた当時と今を比べて、宮沢さんの演出に変化は感じられましたか?
- 笠木
- そうですね、長年一緒にいさせていただいて変わったと思うところはあります。でもそれよりも変わらないところを、当時出演していた時を思い出すことが多いです。宮沢さんの「あ、」とか「うん、」とか「そう、」とか、テンポでいく戯曲っていうのが、自分の原点に戻っている感じがしますね。今の宮沢さんからのダメ出し(※)も当時のダメ出しを思い出すようなもので、「セリフのテンポが悪いな」と言われたりして。(※)注意点・訂正点のこと
- 片岡
- 宮沢さんって「音」を言われるじゃないですか。音の位置。あれがすごく、私も普段気にしているので、やりやすいというか、改めて大発見。
- 笠木
- 最近上演されてる作品、例えばエフリーデ・イェリネクの『光のない。プロローグ?』も音や声がとても重要だなと思って見ていました。
- 片岡
- 去年の夏に上演された『夏の終わりの妹』も、よくある劇のストーリーで展開していくというよりはロジカルに感じました。うまく言えませんが、圧倒されました。でも観終わってみると、いろんなものが私に残っている。言葉や、絵面が残って……という意味では断片的で映像的でもありますよね。
- ──
- たくさんの映像作品にご出演され、ご活躍されている片岡さんですが、舞台の現場と映像の現場との違いって感じられますか?
- 片岡
- これからもっと経験すると思うんですが、まず「声」ですね。宮沢さんに距離感に対しての演出をつけて頂いて「映画と一緒だ!」と思う一面、劇場で届ける声はもっと歓呼しないといけないと意識し始めています。これが大きな違いだなと思ってます。生の人に届けるってことは難しくて。みなさんに協力してもらって試行錯誤しながら稽古していて。なので私は、みなさんに足を向けて寝れません!!
- ──
- そんなことないですよ! むけてください。
- 片岡
- 自分は家庭を持ちながら母であり女優ですが、普段の自分を考えると、これをひきうけるのには自分のキャパシティが足りないのではと悩んだりしました。でも「片岡礼子」としての自分はやりたくて仕方がなくって。オファーを頂いた時、メールの文面が光り輝くような感覚で。やりたくて仕方なかった。でも冷静な自分もいて、体が二つに別れそうなくらい悩んだんです。でも自分に正直になって「やりきるんだ!」って決めました。
- ──
- それはとてもうれしいです。ありがとうございます。
- 片岡
- あと今、デビューしたときに戻った感覚なんです。橋口亮輔監督作品でデビューした時。当時、演技を1からやっていくにあたって、時間をかけて丁寧に稽古をしました。細かく演出うけながら、うまくいったりだめだったり。今、その状態にすごく似ていて。今42歳の私にこんなありがたい現場はないっていうくらいです。
- ──
- お二人は役柄では姉妹ですが、「ここは似てるな」と思うことありますか?
- 片岡
- 役柄では私がお姉さんですが、私生活では笠木さんが私のお姉さんですね。
- ──
- 笠木さんがお姉さん?
- 片岡
- 完全に姉ちゃんです。メールでも色々相談に乗ってもらうんですが、「こういうときはこうですよ」って教えてくれて。そのあと必ず「大丈夫」って言ってくれる。セリフがどうしても入らなくて相談したら、そういう時は寝たら入るとアドバイスしてくれて。そのあと「大丈夫、焦らないで」って言ってくれたんです。
- 笠木
- ……真矢みきさんみたいだな、私。
- 片岡
- それでその通りしたら、次の日入ってたんです、セリフ! 笠木さんの「大丈夫」が私の魔よけみたいな感じになってます。
- 笠木
- そう、不思議なんですよね、セリフって。
- 片岡
- うれしくって、家で泣いた一日があった!
- 笠木
- セリフって覚えるのたいへんですよね。私が20年ぐらいかけて、あーでもないこーでもないと試行錯誤してきたのを、片岡さんはこの1、2か月で凝縮してやってるかと思うと、大変だと……
- 片岡
- あはは、とんでもないですよ。ありがたいです。笠木さんはどんなときも「大丈夫」って励ましてくれて。家事で失敗してイライラしても、笠木さんの「大丈夫」を思い出すと心落ち着くんです。
- 笠木
- お子さんがいて、映画やったり舞台やったりという女優さんは本当に大変だと思います。私、子供がいないので、それってすごく尊敬しますよね。他のお友達で子供がいる女優さんとかでも、両立はたいへんだと言われてます。少しおやすみしたりして。でも、できれば続けたいですよね。
- 片岡
- 続けたい!! 普段私、子どもに対しては「お母さんの仕事ってなあに?」っていう状態でお仕事していて。こういう風に悩むことはあまりなかった。役作りは子どもが寝静まってからやったり、外でやるっていうかんじだったんです。家族には「女優である自分をみせない」ということが、この仕事を続けていく上で重要だったんです。というか、みられた瞬間から気が散るっていう感覚でした。
- 笠木
- そういう方いらっしゃいますよね。
- 片岡
- でも今回は家族にたくさん協力してもらってて。本当にありがたいです。あと、この現場の前にも舞台出演をさせて頂いたんですが、その現場でもみなさんからたくさんアドバイスを頂いて……。ほんと今まで関わって頂いた方々に感謝してます。
- ──
- たくさんのいい出会いを繰り返していらっしゃるんですね、素敵です。
- 片岡
- はい! あ、でもやっぱり私生活では笠木さんが姉です。私、道に迷ったりしてねぇ……。妹の世話が大変ですよね(笑)
- 笠木
- 片岡さんおもしろいです。
- 片岡
- おもしろくないですよっ。
- 笠木
- 片岡さんと待ち合わせると必ず来ないっていう(笑)。
- 片岡
- 「ここはどこですか???」ってよくなって。これは間違わないだろってとこで、間違ったり。じゃあ、「大丈夫でしたか?」って笠木さんから連絡がくるんです(笑)
- 笠木
- もう、だんだん慣れてきて、来ないのが当たり前になってきた(笑)
- 片岡・笠木
- あはははは!
- 片岡
- 私普段、道は得意なんですけど。バイク乗ったりもしてたし。こういうことなかったのに!
- 笠木
- でも私もわかるんです! そういうこと。緊張するとね。昔とある撮影の時、前日に撮影現場行っちゃって。富士山のふもとで一人呆然としたことがある。「誰もいねえ!」って(笑)
- 片岡
- 似てる! 今、その状態なの。緊張で、慣れない現場なのかな? 「こうでしょっ」てことが悉く通用しない!
- 笠木
- でも、私は全然妹のつもりですよ。
- ──
- 劇中の姉妹関係も、姉の七重は妹のミチに甘えてたりするところもありますね。姉妹関係って不思議ですよね。
- 片岡
- 笠木さん、妹に甘えっぱなしで……。妹が体調崩さないか心配です。
- 笠木
- 私はいつでも体調悪いから、大丈夫です。
- 片岡
- 最後まで夢中でついていきますのでよろしくお願いします!!
- 笠木
- こちらこそよろしくお願いします。片岡さんと私はすごく緊張するタイプで。あと、根がネガティブ。そこはすごく似ていて。
- 片岡
- そう、そうなんです、確認しあいましたよね。
- 笠木
- 見た目は全然違うけど(笑)
- ──
- では最後になりますが、これを読んでいただいてる方々へメッセージをお願いします。
- 笠木
- 面白い戯曲なのでたくさんの方に見て欲しいです。自分としては年を重ねて今再び、宮沢戯曲の中で生きていられる喜びを考えています。あと、私が感じているような喜びを、観ているお客さんにも感じてもらえたらいいなと思ってます。お客さんと一緒にこの世界を生きるというか、共有する、ってことかもしれないけど。
- 片岡
- この戯曲を読みこんでいくうちに「迷いの迷宮」みたいな感覚に陥って。つい最近、その迷宮のようなものの先に行きたくって『ヒネミ』を手にしました。宮沢さんのエッセイも読みました。それでひとつ、私の大好きな映画を思い出したんです。架空の町に転々と動く遊園地が、ある晩だけそこに来るっていうようなお話。それに似たような感じで、「遊園地再生事業団」っていう幻のような場所に私は迷い込んだまま、その不思議な状態で『ヒネミの商人』と向き合っています。架空の町であるヒネミでの言葉とか、六ちゃんとか、地図とか、なくなった不思議な出来事が変に日常と重なるようで。
- 笠木
- 「片岡さん」という土地に遊園地再生事業団が移動して、片岡さんを巻き込んでいるようですね。
- 片岡
- その浮遊感が小気味よいです。その感じをみなさんに素敵に届けられたら、役者をやってて本望です。
- 笠木
- 映画で片岡さんをよく知っている、映画を好きな人にも観に来てほしいですね。「え、こんな片岡礼子が観れるのか!」って
- 片岡
- それ最高!
- ──
- それいいですね! いろんな舞台で活躍されている笠木さんを知っている方々にも是非観に来てほしいですね! 今日はお忙しい中ありがとうございました。
(2月17日、森下スタジオにて)
